日本にはコンビニの数が5万以上もあるらしい。
私は手話サークルで知り合った聾の人と一緒に
たまたまそのコンビニに入った。
一通り店内を見てから、彼は惣菜パンを1つ手に取ってレジへ並んだ。
私もお茶を持って彼の後ろに並んだ。
レジを打つ女性店員は30代だろうか。
いよいよ彼の番になった。
その店員さんは、全国のコンビニエンスストア共通のマニュアルに従って、
「いらっしゃいませ」「お待たせしました」
の言葉を並べている。
私は後ろからその様子を見ていた。
彼は耳が聞こえないので、
店員さんの意図は伝わっていないようだった。
あとで彼に聞いて分かったことなのだが、
レジでは何かとやかく言われるのが嫌なので、
店員さんのどんなマニュアルにも
とりあえずは首と手を振って断るようにしているらしい。
店員さんは彼の耳の聞こえないことを
感じ取ったと見えたが、
驚くことに、ためらいなく/少し//待って//ください/と
それはもう上手な手話で表した。
突然のことにびっくりして、彼と私は目を見合わせた。
聞けば、彼女は突発性の難聴に罹ったことがあって、
音が聞こえなくなったのだそうだ。
今それでも回復したらしく、当時自分のためにと
身につけた手話を覚えている、と話した。
彼の驚きは、コンビニの店員さんが手話で話せることも
さることながら、
それ以上にコンビニのレジで、
「温めていかれますか」「袋お使いになりますか」「シールでよろしいですか」「ポイントカードはお持ちですか」のようなやりとりがあるのだと
知ったことにもあった。
それから幾月か経って、
私はそのコンビニに耳の聞こえない人たちが集まる、ということで
ちょっとした話題になっている、というのを風の噂で聞いた。